『FACTOTUM』有働幸司 – イマジネーションと本との関係


 

2004年にブランドをスタートし、モードとリアルクローズを程よくバランスさせたコレクションを展開しているブランド『FACTOTUM(ファクトタム)』。2007年S/Sより東コレに参加、継続的にショーを行っている。その特徴として、本や音楽、アートなどをインスピレーションソースにそれに関連した世界各国の土地を訪れ感じた物をコレクションに落とし込んでいる点が挙げられる。
 
3月21日に渋谷ヒカリエで行われた2015-16A/Wのショーでは村上春樹の小説「羊をめぐる冒険」からインスパイアされたコレクションを発表。「SHORT TRIP」と題された、どこか牧歌的な温もりを感じるモダンカントリースタイルが披露された。
 


 

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今回、独自の手法でファッションと向き合う『FACTOTUM』デザイナー有働幸司氏に、服作りに対する考え方や、度々イメージ作りに用いられる本との関係性などについて話を聞いた。(※因に、ブランド名の《FACTOTUM》はアメリカの作家チャールズ・ブコウスキーの小説のタイトル《 邦題 : 勝手に生きろ! 》よりとられている。)
 

 

 
— まず最初に、ブランド名をブコウスキーの小説から取られてますけど、このタイトルを選んだ理由はどんな所からなんでしょうか?
 
新しく自分でブランドを始めようと考えていた時期に、それまでの服作りに対しての迷いや悩み、そして不安などいろいろ抱えていて、その頃たまたまチャールズ・ブコウスキーという作家を知って彼の本をいろいろ読んでいたんですけど「Factotum」というラテン語のタイトルがつけられた小説を読んで、日本語タイトルの「勝手に生きろ!」に象徴されるように自由に自分のやりたい様にやればいいんだというような、ある意味吹っ切れた気持ちにさせてくれたんでこの言葉をブランド名にしました。

 
— ブランド名にしてもそうですが、コレクションの方も本からインスパイアされた物が多いですよね?
先日の2015-16A/Wのショーでは村上春樹の「羊をめぐる冒険」からインスパイアされたコレクションを発表されましたが、本からどの様に服作りに発展させていくんですか?

 
本を元にテーマを作って行く時は、イメージを膨らませる為そのストーリーの舞台となった場所に行くケースが多いんです。今回の「羊をめぐる冒険」では主人公の足跡を辿る形で東京からスタートし、札幌に入って旭川に向かい、小説のメインの舞台である「十二滝町」のモデルとされている「美深町」を訪れました。
物語に出て来る”のっぺりした広い台地” の湿原はオフシーズンのため封鎖されていて残念ながら立ち入る事が出来なかったんですが、他に、話の中でアイヌの少年が登場してアイヌの悲しい歴史などについて描かれている部分があるので、アイヌミュージアムを訪れたり、物語のメインのモチーフでもある羊、緬羊の博物館などにも行きました。事前にある程度リサーチしてから行くんですが、今そういった情報って本やネットでかなりの部分手に入るようにはなっていますけど、やっぱり現地に行ってみないと分からない事って有りますよね。街やそこに暮らす人々から感じる印象も有りますし。
実は、今回のショーで使用した写真なんですけど、美深町を訪れた時にたまたま駅に写真が展示してあって、良い写真だなって見ていたら、その写真が以前お会いした事のある写真家の岡田敦さんの物だって分かって、その偶然にもちょっとビックリしてその後ご連絡してショーで使用させて貰ったんですよね。そういった出会いもあるんでやはり現地に行っていろいろ感じるって事は大事にしています。
なので今回のような本から発展させていく場合や、他のアートや音楽などからの場合もそうなんですが、具体的なそのものから直接的に発想するっていうよりも、物語の舞台となった場所やアーティストの作品に関連した土地などを実際に訪れて、その旅の中で観て感じた物をふくらませてコレクションを作っていきます。これはブランドを始めた時から一貫して継続しているスタイルになります。
 

 
— 今回、村上春樹さんの作品を取り上げる事になったのは、なにか理由があるんですか?
 

これまでコレクション作りの為にいろんな地域を訪れたんですが、実は日本国内は今回が初めてなんですよね。そう言えば国内行っていないなと思って、それで好きな作家である村上春樹さんの作品をモチーフにさせて貰いました。

 
— やはり本はかなり読まれるんですか?
 

もちろん本は好きなんですが、すごい読んでるかっていうとそれ程でもないですね。本当に好きな人だと年間300册以上とか読むじゃないですか?僕の場合はせいぜい週に2冊程度ですかね。だいたい仕事の合間にカフェとかに行って読書する事が多いです。そういえば、高校生の頃に初めて自分の意思で読みたいと思って買った文学的な本は村上春樹さんの「ノルウェーの森」でしたね。

 
— 本から自分の人生に影響を受ける事もあるかと思うんですが、本関連で何か想い出深いエピソードとかありますか?
 

「FACTOTUM」ってブランド名にしているって事もあって、以前ある雑誌の企画でブコウスキーの奥さんに逢いに行く機会があって彼の生前の貴重なお話をいろいろ聞かせて貰ったんですけど、小説のイメージとはちょっと違った彼の人間性とか生活を時にちょっと涙ぐみながら奥さんのリンダさんに語って頂いたんですが、お二人の暖かい関係にほっこりしましたね。お話の後にブコウスキーのお墓にも行ったんですが、お墓に『DON’T TRY』って書いてあって。それは彼流の照れ隠し的な言葉で、本当は失敗を恐れずトライし続けるんだって自分に言い聞かす為の言葉だったらしいんですよね。

 
— 個人的にはそうも思わないんですが、「若者の本離れ」みたいな言葉を耳にしたりもしますが。
 

確かに街や移動の電車とかでスマホいじってる人をよく目にしますが、何してるのかなって思うとSNSとかゲームとかが多い気はしますね。以前は本を読むぐらいしか時間つぶしの手段が無かったってのも有るとは思うんですが。なんか今って何にでも効率化を求めるっての有りますよね。でも、無駄な物に面白い物があったり、一見無駄って思える時間とかが人生を豊かにしてくれるんじゃないかと思うんですよ。例えばコレクションでも旅やある特定の地域にインスパイアされた物って他のブランドでもよくあるとは思いますが、僕達のような方法論でアプローチしている所はあまり無いと思うんですよね。無駄な部分も多いですし。良い結果に繋がるかさえ行ってみないと分からない。もしかしたらあまり得る物も無いかもしれないし。でも、だから面白いんだと思うんです。

 

革ジャンにTシャツにジーンズという70年代的な自由な精神という物を基本に置きつつも、男臭さというよりむしろフェミニンさを感じるような、クリーンで都会的なスタイルが特徴でもある「FACTOTUM」。そこに各シーズン毎に本やアーティストなどからインスパイアされ、様々な土地から感じたイメージを”フリカケ”のようにトッピングして味付けされたコレクション。「日本だからいろんなスタイルのブランドが成立する。」と語る有働氏が観せてくれる世界観を今後も楽しみにしたい。

 
http://factotum.jp