AUGUSTE-PRESENTATION – 衣服の新しい価値観の提示。デザイナー大野知哉の信念とは?



 
これまで数々のショップを手がけてきた南貴之氏による自身初となるセレクトショップ「Graphpaper」で、現代における衣服デザインの本質を見つめなおしたファクトリーレーベル「AUGUSTE-PRESENTATION(オーギュスト-プレゼンテーション)」の企画展が開催された。
今シーズンの商品に加え「Graphpaper」が別注したブランドの人気アイテム「デニム天竺パンツ」や、新ラインとなるユニセックスボディーシリーズ「 GOWN&FOUNDATION GARMENTS 」の体型に合わせ着方を変えられる計18サイズ展開となる丸胴編みカットソーの先行販売、さらに週末限定で、ケモタイプ精油を使った手作りフレグランスワークショップも併せて行われた。
 
今回はこの機会に、独自の視点の物作りでコアなファンを魅き付ける「AUGUSTE-PRESENTATION」デザイナー大野氏に、その発想や物作りに対する思いを聞いた。
 

 
 

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■ 完璧な物のなかの”間”

— ブランド名の由来 —
 
”オーギュスト”とはベルリンの方言で「愚か者」を意味する言葉。
大野知哉氏(以下、敬称略)は、この言葉に「フェリーニの道化師」という映画で出会った。
 
モードの本場で服作りを勉強する為にフランスに渡った大野。パリで経験を積み日本に戻った彼はデザイナーとして働きながらも、ある思いに悩んでいた。パリやミラノなど欧米でコレクションを行っている著名なブランドは、言うまでもなく富裕層をターゲットにしている。それを取り上げるジャーナリストやメディアも当然そういった層に向けて発信している。そういう世界の一端で仕事をして来た大野は、リアルな現実とのギャップからだろうか、ある時から「お金持ちの人を相手に、服を作ってるのが嫌になった。」という。もう服作りを辞めようかと考える程思い詰めていた彼は、何かのヒントを求めてなのか、名作と言われる映画をとにかく片っ端から観たという。その中で心に刺さった一本が「フェリーニの道化師」だった。サーカスの世界を描いたこの映画。元来道化師という者達は多芸・多才が求められる職業である。完璧な演技が求められる中、一人のどじな道化師が演技を失敗する。それを誤摩化そうとして変装してステージに戻ったものの焦って失敗を繰り返す。それを観て観客は「オーギュスト」とバカにして大受けするのだが、そのシーンを見た大野はそこに”間”を感じたという。完璧な世界にちょっと間をあける。そこに服作りのヒントを垣間みたのだろうか。道化師というと”クラウン”という呼称が一般的に知られているが、優等生的な”クラウン”に対する”オーギュスト”という存在に魅かれ共感を覚えた大野は、後に自身で始めるブランドにこの名を付ける事となる。
彼は言う「服は人が着る事で初めて成立する物。決して芸術作品とかでは無い。」もちろん物作りの段階でアート的なアプローチというものは存在するのであろうが、この言葉の意味する物は、芸術作品とは一つの完成された形態であり、ただ観賞するのみなのに対して、服は製品の段階ではまだ完成形ではなく着る人それぞれの解釈でいかようにも変貌するという事を言っているのだろう。その人に残された解釈の余地、それが先の”間”に繋がるという事でもあるのではないか。その思想は柳宗悦の”民藝”の捉え方にも通じるものを感じる。

 

■ 宇宙・風土・そしてユニバーサルなもの

— 精神面からのアプローチ —
 
イームズ夫妻によって撮られた一本の短編映画がある。人間と宇宙を対比した、視点の移動による思考実験的な作品である。この映画は、これを観た大野に少なからずインパクトを与えたようだ。「それまで宇宙って、すごい大きい物が宇宙だと思っていたけど、コレを観て何にでも宇宙はあるんだって思うようになった。」
 
【 1977年のチャールズ&レイ・イームズ夫妻による短編映画。 】

 
好きなブランドとして「Maison Martin Margiela(マルタン・マルジェラ)」や「BLESS(ブレス)」を挙げる大野。それらのコレクションを観て”ヤラレタ”と感じた彼は、そのパンク的なアプローチを表面的なデザインにでは無く精神的な部分から追求して行こうと決める。衣服というものを根源的に見つめ直し、様々な矛盾やジレンマと対峙しながら、その考えは地球のエコ・システムにまで及んだ。「服なんて10着あればいい。」根底にそういった考えを持ちつつも、それでも服を作り続ける意味とは・・・
 
養老孟司などの思想家・研究者達の書物などを読むにつけ、地球環境の危機に関して無関心では居られなくなった彼は、まず、オーガニック・コットンしか使用しない等環境に配慮した素材選びをするようになった。当時はまだエコな素材を唱った洋服はファッション的には今ひとつな物が多かったというのもあって、周りの知人達からは批判的な目で見られたという。それでも「たとえ偽善だと言われようとも、環境破壊につながる事はしたく無かった。自分一人がやったところで状況は変わらないとしても、一人でも始めないと変わらないし。」と当時の思いを語る。
大野が目指すのは、風土に則した物作り。調和。天然素材にこだわる事はそう言った事も含めた必然なのだろう。
 

■ キーワードからの発想

— クリエーションの過程 —
 

 
大野の物作りの過程は一種独特だ。それは言葉から出発するという。デザインを考えるのは後回し、最後の段階らしい。それは、デザインの為のデザインを避ける意味も有るのかも知れない。例えば、今回の企画展用にと「Graphpaper」が別注した人気アイテムの「デニム天竺パンツ」。大野はジーパンという普遍的なアイテムに対して、自分に出来る事は何も無いと感じていた。それは、ディテールやシルエットなどで工夫したところでオリジナルを越える事は決して出来ないと思っているからである。しかし、ジーンズの本質を改めて考え直した時に、今の時代に合った”ジーンズ=作業着”の形があるのではと考えた。現代の生活では、ジーンズが誕生した時代のようなハードな作業をする機会はまず無い。だったらそこまでタフな生地は必要無いだろう。それよりも、動き易さ、快適さのほうが重要だろうという所から発想していった。そして従来のデニムに変わる新しい生地を試行錯誤しながら作り出す。化繊をいれてストレッチを出すのでは無く、あくまでコットン100%にこだわりながら。そうやって作り出された商品は、その新しい履き心地などで口コミで評判を呼び人気アイテムとなった。デザインを意識させないように注意深く、控えめに成されたデザイン。それは一見とてもシンプルに見えながら、なにか強く訴えかける物さえ感じる。
人と同じ事はやらない。衣服を本質的な部分から見つめ直し、あらゆる角度から新しい価値観を探る。そういった姿勢から生み出された服は、わずかな違和感と強い存在感を放っている。
 
売れない時期が長かったと言う大野は、何より服を買ってくれる人、一人一人に喜んで貰える事を第一に考えるという。彼の目指している服とは、「料理に例えると、高級レストランのディナーではなく、屋台のフランス料理。ここ一番の取っておきの服ではなく気が付いたら週に4日着てたという存在の服になれれば嬉しい。」と、その思いを語った。

 
 
■ AUGUSTE-PRESENTATION : http://www.auguste-presentation.com
■ Graphpaper : http://graphpaper-tokyo.com